阿武隈川 白水沢 事故報告書
※この記録は一橋大学ワンダーフォーゲル部(以下HWV)の部員が記録・作成したものです。主たる対象はHWVの後輩であり、レベルに関する表記などはHWV基準で書かれています。
また、記録対象が「自然」であるため、ここに書かれている記録通りの状態が永続することを保証するものではありません。
文責 真船大輔
0.事故の概要
本事故は2006年10月21日に福島県内阿武隈川支流白水沢を遡行中、F1白水滝でセカンド真船が登攀中に岩をかわそうとして滑落し、左足を負傷し、撤退したものである。メンバーは以下。CL安井教祐、SL清水雅文、高野将史、真船大輔、小幡憲悟
1. 状況
10月20日18時立川集合で、レンタカーにて出発。安井、真船は10分程遅刻。その後手続きを済ませ出発。大学前で高野と合流し高速道路使用で那須へ。ドライバーは高速までは安井、高速に乗る前で小幡に交代上高地SAから大黒屋までは高野が担当する。結局大黒屋到着は12時前に。テント設営、偵察などした後12時頃就寝。この日はわりとよく眠れたと思う。翌朝五時半頃起床するがあまりの寒さに動きだしを遅らせる事にする。この寒さのせいなのか、自分は先週から引いていた風邪が悪化して体調があまり優れなかったが特に行動に支障はなさそうなのでリーダー、メンバーに報告することはなかった。結局六時頃動き出し、六時半に撤収、七時行動開始という感じになる。大黒屋の前を通り過ぎ登山道を5分くらいで白水滝下の入渓点へ。白水滝は高度感はまずまずだが釜がかなり深いという印象だった。まずトップの安井が取り付く。岩は脆そうだが見た感じでは割とすんなり登っていたように見えた。安井は登りきるとパワーロープを出して後続に登って良しとの合図を出したので自分が取り付き始める。ここで安井が何か言っているようなので後続の清水のたちが聞くと「支点に信頼がおけないのであまりロープに頼るな」とのこと、それを伝えられ了解したと伝える。(実際には岩が脆いので気をつけろと安井は伝えたかったようであるが…)取り付き始めるとまず取り付きまでのトラバースが思っていたよりもいやらしく慎重に進む。滝の真下まできて登り始めると安井が通った水線左のルートは思っていたよりもホールド、スタンスが少ない。また想像以上に岩も脆かった。水線沿いのルートを通ればホールドがありそうだが、この気温なのでそのルートは避け、安井が通ったルートよりさらに左側のルートを通ることにする。ホールドが脆いため一つ一つ確認しながら登っていくと、直径50cmくらいの岩がはずれて落ちてくる。咄嗟に身をかわそうと体を動かしたためにスタンスから足が離れ3m程下に滑落。途中滝に二、三度体がぶつかった後、釜より少し上の岩と岩との間に挟まってとまる。10秒ほど放心状態になっていたが、立ち上がって後続のメンバーに状況を立ち上がると左足が痛むが、なんとか歩けそうだったので自力でメンバーのところへ戻る。メンバーと合流し、しばらく足の状態を見たいので待って欲しいとのことを伝える。SLの清水は巻き道を使って滝上の安井のところへ状況を伝えに行った。その間にスパッツを外して左足の様子を見てみると脛の部分が打撲しているようで少し腫れており、打った衝撃で痺れている。また、足首も捻ったようで腫れていた。験しに歩いてみるがやはり歩けないことはないが痛む。特にザックを背負うと痛みは酷くなる。しばらくすると清水が滝上から行けかどうかきいてきたため、詳しい様子を伝えるために戻ってくるように言う。五分くらいで、安井、清水が戻ってきたので「全く動けないわけではないが痛みがあり山行を完遂できると自信をもって言える状態ではない」と伝える。その後リーダーズで協議した結果撤退が決定し、自力で大黒屋まで言ったのち在京へ事の次第を報告した。
2.時間経過
・20日18:00
立川マツダレンタカー前に集合。
・18:30
立川から出発
・18:40
大学西門前で高野と合流。
・18:50
大学から出発
・19:30
高速に乗る前に田無付近のコンビニで休憩買出し
・19:50
大泉ICから東京外環自動車道にのり、川口JCから東北道に乗る
・21:00
上河内SAで夕食
・21:30
上河内SAを出発
・23:00
白河ICで東北道を降り、那須甲子温泉大黒屋を目指す。
・23:45
大黒屋到着。
・10月21日1:00頃
就寝。
・5:30
起床予定時刻。
・6:00
各自朝食をとるなどして起床し始める。
・6:45
テント撤収
・7:00
出発
・7:10
F1白水滝到着。
・7:20
事故発生
・7:50
撤退決定
・8:50
在京へ報告
3.分析
今回事故の最大の原因は自分実力不足につきると思う。メンバーによる、フォローや確保があるとはいえ、滝の登攀においては結局自分自身の力で登りきらなければならないため、このような事故を起こした原因は自分の登攀力の不足や体調管理のまずさにあり、原因の大部分は自分にある。では、何故自分がそのような状態になってしまったのかを分析していくと部やパーティー全体の様々な問題点が浮かびあがってくる。まず、部の遭対において主に2年でリーダーを取る安井の経験や技量が論点になっており、メンバーの技量についてはあまり議論されず、解決策として行われたプレ山行(竜喰谷、マスキ嵐沢)も安井のリーダー、トップ経験を積む事がメインであり、メンバーの登攀のトレーニングとしては結果的に不足であった。また、この時期に那須の沢に行くというのに寒さに対する対策ももう少し議論する余地はあったのだろう。また、レンタカーの関係上とはいえ前日18時出発というそもそもの日程や、遅刻や準備不足などで結果的に到着が零時を越えたことも翌日の山行に疲れを残すことになった。
このように事故を起こすような土台はあったわけだが、最初に述べた通り最大の原因は自分の力不足であり、その結果ご迷惑をかけてしまったリーダー、メンバー、在京も方々にはこの場を借りてお詫び申し上げます。
4・リーダーとして
CL(安井)
リーダーとしてかなり反省させられました。真船さんが大怪我にならなくて本当に良かったと思います。
まず思ったのが誰も経験したことのない沢の恐ろしさです。今まではすべて誰かしらが行ったことのある沢ばかりの登攀に慣れきってしまって、色いろ考えて登るということができていなかったと思いました。つまり自分たちのレベルに応じた対処を前もって知らないときのリーダーの対処の選択の重要性を感じました。
崩れやすいとわかっておきながら、(自分の登攀中にスタンスが崩れたりしていたにもかかわらず)パワーロープだけで対処するというのは明らかに間違っていました。確保がしにくいということもありましたが、それ以上に真船さんなら(上級生なら)大丈夫だろうという甘えがあったのが本音です。これは自分以外が上級生というイレギュラーな状況が一因ではあったと思いますが、リーダーとしての自覚が足りなかったというのが大きな要因です。
この失敗を忘れることなく来年がんばっていきたいと思います
SL(清水)
今回の事故は不幸中の幸いだったと思う。まず、事故が起きたのが、下界からの滝見物も容易なところであり、撤退が簡単であったことが挙げられる。次に、事故者の真船が軽傷で済んだということである。
真船の分析にもあるように、この事故の原因は複合的なところにあると思う。私はその中でどの原因を一番に挙げるということはしない。しかし、たとえ、真船が無事に突破していたとしても、後続の誰かが、同様の事故を起こしていた可能性は(真船と比べて)同等かそれ以上であると思う。
本事故は「確かめようとしてホールドが外れる」という特異、不運な事故としか良いようがない。そこに至るまでの過程(アプローチなど)でそれを回避するために出来うることもあったと思うが、中々難しい問題だとしか良いようがない。
本事故からは、我が部が06年度に抱えていた複合的な問題(=一年生がおらず、上級生だけで「ガンガン行く」&「雰囲気はマッタリ」)が見えてきたと思う。
最後にご心配をお掛けした在京の方々には深くお詫びを申し上げます。